本朝美少年録/實吉達郎

光風社出版  1993.10.5初版

小説JUNEに連載されていた美少年評伝を纏めた一冊。
非常に読み応えがあります。
耽美な方向に読み解くよりは寧ろ耽美を覆して美少年の実像に
迫ろうと言う硬派な小論集と言った方が良いでしょう。
参考文献も非常に硬派で、実に地に足のついた一冊だと感じます。
時を経て古くなる所か、その輝きが増している様な感もありますし。
                   (2003.9.6)

南方熊楠男色談義 岩田準一往復書簡
/長谷川興蔵・月川和雄:編

八坂書房  1991.9.30初版

全集だけでしか熊楠翁の男色書簡を追う事が適わぬのかと半ば
諦めておりましたが、この度岩田準一氏との往復書簡を納めた
本書を入手する事が出来ました。嬉しき限りです。
熊楠翁だけの話でも興深かったのですが、ここに岩田氏の書簡が
加わると更に話に奥行きが出てまいります。
正しくこれは談義の名に恥じぬ濃密な解読書でありましょう。
                    (2003.9.6)

biBoy17 特集ショタコン 

青磁ビブロス  1994.10.15初版

ショタコンがやおいの一部として認識され公式に使用された最初の書、
らしいですね。ですが内容的にはちぐはぐなものを感じます。
今にして思えば『ショタコン』の齟齬はこの一冊で生み出されたのかも、
という気持もします。当時読んだ時点でも何か消化し切れないものを
感じていましたから。過去をとやかく言っても仕方ありませんけどね。
                    (2003.9.6)

アポロン達の午餐/赤江瀑

文藝春秋  1978.3.30初版

性的な萌え、と言うよりは精神性に萌えると言った所でしょうか。
舞台設定の妙と淡々とした男性美賛美には只息を飲むばかりです。
絶版本を捜し求めてでも読む価値はあろうかと思っております。
建石修志による装丁が又嫌が応にも作品世界の味わいを深めておりますし。
                 (2003.9.7)

らっぽり やおい特集号/波津彬子:責任編集
(小説JUNE 2001年3月号[通算129号]再録)

らっぽり編集事務局(私家版)  1979.12.20発行
(マガジンマガジン  2001.3.1発行)

やおいと言う言葉が公的に用いられた元祖とされる同人誌のほぼ完全
再録版(編集部に拠ると裏表紙のみ割愛との事)。
やおいの語源については全くと言って良い程芳しい話を耳にしませんが、
この本を読むと悲惨さの欠片なぞは先ず見当たらず、寧ろ雰囲気を醸し
出す演出法への腐心や言語定義に込められた諧謔など開拓者としての
心意気が感じられるのですね。収録作品から感じられる色香も非常に
新鮮でした。   (2003.9.7)

世紀末少年誌/須永朝彦

ペヨトル工房  1989.2.24初版

『少年』という事柄への薀蓄が行間から零れ出しそうな、そんな一冊です。
感触としては熊楠翁の薀蓄を足穂氏の文体で少し希釈して供したと言う
感じでしょうか。少年の美を賛美しつつも徒らに溺れず、その本質を見極め
ようとされているという印象を受けます。
旧仮名遣いで少々読み難く感じる向きも居られましょうが、まあお一つ。
                     (2003.9.7)

昭和美少年漫画大全集 1986小説JUNE3月増刊号 

サン出版  1986.3.5発行

JUNEに掲載された数多の漫画の中から厳選され545ページの枠内に押し込め
られたエッセンス集です。時代色は確かに感じますが、今でも萌え心を擽る
作品が散見されるので困ります。
あの人がこんな作品を描いていたのか、と軽く驚いてみるのも又一驚でしょう。
                   (2003.9.7)

えんじぇる大戦争/佐藤真理乃

スタジオ・シップ  1993.3.20初版

葡萄瓜は2001年以前は専ら専門書店店頭のみ利用の買い専でした。
ですから同人作家さんの修羅場や実態と言うのはあくまでも情報誌で
伝えられる範囲までしか知りません。まあ、如何な専門誌が伝える
情報と言えどあくまでもドキュメンタリーではなく読み物。エッセイと
言ってもデフォルメは当たり前のお約束として受け取っております。

と、長い前振りをしておいてこの作品の紹介に入ります。
多分この作品くらいでしょう。同人乙女の楽しくも時々悲しい実態を
妙に歪めずデフォルメのみで作品として昇華しているのは。
心情的にはこの主人公連と殆どシンクロしてます、ワタクシ。
                   (2003.9.8)

午後の曳航/三島由紀夫

新潮文庫  1968.7.15初版

1976年に日本ヘラルド配給によって洋画として上映された作品の原作です。
確かに日本を舞台とするよりは外国としての設定の方が似つかわしい内容
ではあります。往時の日本で再現できる舞台設定かと言われれば正直難し
かったでしょうし。
そう言えば14歳と言う年齢について世間が騒いでいた時に不思議とこの作品は
引き合いに出されていなかったのですね。過激な表現を使われていたにも拘らず。
それはひょっとするとこの作品に時々効果音の様に漂う同性愛的な描写の所為
だったのかも知れません。寧ろ主人公の行動原理は子供っぽい倫理観ではなく
芽生え始めた同性愛的感情だったのかも知れないと、最近妙に思うのです。
                   (2003.9.8)

AND HYDRA 

HyperMekeMekeGroup(私家版)  1996.12.28発行

ブレスにて『蒼き狼たちの伝説』の作画をされた湯島ショーヘイさんを
中心とするサークル同人誌です。
ジャンルはガンダムWING。カップリングはデュオ×ヒイロ。

この本を読んだ後だから、改めて言えます。
湯島ショーヘイVersionの『蒼き狼たちの伝説』、完結させて欲しかったな、と。
物語の根底がとてもしっかりとしたSFなんです。そして、やおいとしても萌える。
描線だけをみるといかにもなんですけど、それは物語のテーマの重さを中和させる
為の物かも知れません。いい出会いをしたものです。  (2003.9.8)