寝ずの番/中島らも

講談社  1998.10.8初版

中島らもと言う人は実にケッタイなオッサンです。
何しろエッセイは悉く小説風で、小説の方がエッセイに近いのですから(苦笑)
この短編集で唯一純粋にフィクションだろう、と思えるのはこの人の初めての
やおい的作品であろう「仔羊ドリー」でしょう。
作品テーマはSFなんでしょうが…心情的にはやおいを狙ったと言う風に
読めてしまう。何でもありな人やからなぁ…。  (2003.3.26)

オタク・ジャポニカ 仮想現実人間の誕生
/バラール,エチェンヌ、新島進:訳

河出書房新社  2000.5.25初版

「オタク」と耳にした瞬間、貴方はどんなイメージを持たれますか?
「オタク」は決して貴方と別世界に住む人種ではありません。誰でも其の芽は
持っていて、偶々一部の人間が其の芽に特化しただけの話なのです。
異人礼賛の徒ではありませんが、敢えてこの本は一読を奨めます。
内側からでは見えない原因を知っておく為に読んで置くべきだと思うので。
                        (2003.3.26)

XY 男とは何か/バダンテール,エリザベート、
上村くにこ・饗庭千代子:訳

筑摩書房  1997.8.10初版

医学的な「男」の解剖本ではなく、社会の構成要因としての「男」を考える本。
同性愛についても冷静に考察されていて、読むのに少々骨は折れますが
中々に面白い。辛うじて現存する一部種族の同性愛行為を含む成人儀礼に
ついても静かに言及されています。翻訳書でありながらこの読み易さは
有り難いです。  (2003.3.26)

愛と残酷のギリシャ神話/桐生操

大和書房  2002.7.5初版

グリム童話の解釈本で世に名を知られる方々がギリシャ神話を母体として
書いた短篇小説集です。元の話の概略もついています。
実は期待せずに読み始めたんですね。あの解釈本に抱いた印象が余り良く
なかったのと、こう言う換骨奪胎小説には先達が結構居るので。
ところが、却ってこの本の方がすんなり面白く読めました。
元の神話を知らずとも面白く読めるのでは無いか、と。
難を言えば本のタイトルの所為で今までの印象は拭えませんね。
それさえ考えなければ良い短編集だと思います。  (2003.3.26)

「オカマ」は差別か 『週間金曜日』の「差別表現」事件
/伏見憲明・及川健二・野口勝三・松沢呉一・黒川宣之
・山中登志子・春日亮二・志田陽子・下村健一・taka
・田亀源五郎・平野広朗・浩史・本多勝一・宮崎留美子

ポット出版  2002.2.28初版

やおい表現をもう一度自分で考え直す一助になれば良い、と思って
読んでみましたが…どうも読んだ後で脳味噌が痒い様な気がする(苦笑)
事の発端は東郷健さんのインタビュー記事に対する抗議だった
そうなんですが…読んだ印象では、一番話さなければいけない人が
黙っている様な気がします。葡萄瓜の読んだ限りでは。
活字の海に言葉を投げ込んで見えなくなればそれでオシマイ、
なんて当事者の皆様が思ってなきゃ良いな、と思います。
                   (2003.3.26)

桜井京介のゲストハウス2 建築探偵コミックアンソロジー

ノアール出版  2000.7.4初版

葡萄瓜の属する同人ジャンルの商業アンソロジーの(多分)最新版です。
これ以降は寡聞ながらでたと言う話は幸か不幸か(?)聞いていません。

小説の同人と言うのは、一歩間違えると怖いんですね。
どう恐いかと言うと、キャラクターに一定のフォーマットが存在しない。
故に解釈が自由な点はあるんですが…読者の抱くイメージの共通項と
言うのも又ある訳です。共通項の集大成=フォーマットじゃ無いか?
一概にそうとは言い切れません。微妙な溝が多分存在するのですよ、きっと。
その点から言うとこのアンソロジーはフォーマットと共通項をちゃんと
押さえてあると思うのです。もし今続刊が出るとするならば、その点だけは
押さえて置いて戴きたいな、と。  (2003.4.2)

PRESENT 太光小説アンソロジー/二夜子、他

私家版  2003.1.5初版

購入同人誌より。ジャンルはデジモンです。
参加した作者さん達の眼差しの優しさが行間とは言わず活字の隙間から滲み出る、
そんな暖かさを感じます。あっさりとした、そしてしっかりとした味付けが
されていて、読んでいて心地良いのです。読んで、良かった。
                   (2003.4.2)

南方熊楠全集9 書簡3

平凡社  1973.3.1初版

他の文章でも書き散らしていますが、岩田準一氏宛の男色関係の書簡を
読みたいが為に借りた一冊です。些か難読ではありますが。
三百頁程に亘ってびっしりと熊楠翁の薀蓄が傾けられております。残りの
三百頁余りは今回読み流しましたが植物学関係の書簡が主体でした。
興味のある向きは御一読を。
巻末には稲垣足穂氏の男色部分の余談もついており、兎に角男色の学術
資料が読みたいと思った時には良い一冊なのでは無いか、と。
くれぐれも凶器にはなさらんで下さい。  (2003.4.2)

SYOTAYANEN the Anthology 

私家版  2003.3.8初版

初版日と同日に開催されたイベントの公式アンソロジーです。
内容から先に言って置けば、年齢制限はありません。寧ろちゃんと
読んで戴きたい内容であります。先入観など無くしてね。

この顔ぶれの年齢制限付のアンソロジーなら、安心して読めると
確信はしてますけど(笑)   (2003.4.2)

ロマンJUNE 1988 小説JUNE10月増刊号

サン出版  1988.10.5発行

読んだ当時の記憶がかなり曖昧なので現物を再び手にするまで確証が持てません
でしたが…葡萄瓜の背中を押してしまったのはこの本なのかも知れません。
今読んでも濃いです。下手すると、後から出たロマンJUNEよりも恐らく創刊号で
あるこの号の方が濃いのかも知れない。それでひょっとしたら発刊年度を間違って
記憶していてやおい事典に登録…。
…すみません。矢張り葡萄瓜の怠慢の顕れですね。
確かこの号にはかなりの割合で『さぶ』からの転載作品があった様な気が…
挿絵陣はガラリと変わっている様子ですが。南伸坊さんまで挿絵描いてますし。
なんと言って良いのか…ひょっとしたら今日を予言していたかの様な、
そんな一冊でした。店にあってしみじみ良かった。  (2003.4.8)