文学賞メッタ斬り！/大森望・豊�ｱ由美

パルコ　　2004.4.27初版

痛快、の一言でしょうね。読み達者の一太刀ですから
余計に痛快痛快と笑えるのやも知れません。
文学賞を最初から読まない！という選択を出来れば
かなり楽なのでしょうが筆者も悲しきかな俗人であります。
世間で褒めるものの顔を一度は拝みたいと言う好奇心を
しっかりと持ち合わせております。その好奇心に残酷に
裏切られ、それでも泣けずにとほほと力なく笑いを漏らした
事は、さて何回ありました事か。
その力無き笑いを爆笑に変えてくれたこの本は実に有難かったです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.12）

真性活字中毒患者読本　版面考証/活字書体史遊覧
/小宮山博史・府川充男・小池和夫

柏書房　　2001.9.30初版

活字を愛する人であれば既に読んでいる一冊なのやも知れません。
もしも未読であれば取り急ぎ一読する事を強くお奨めしたいです。
此れ程の活字曼荼羅・活字極楽・活字の愉しき生き地獄はそうそう
見当たりますまい。確かに漫然と当たるを幸い様々な字体見本帳を
観ると言うのも愉しいのでしょうが、ざくざくと並べられる書体見本と
薀蓄の数々に舌ならぬ瞼鼓を打ちつつかき込むと言うのも愉しいものです。
本邦にはまだこんなに愉しい活字が隠れていたのですねぇ。
紙限定の愉しさになるとしても、こう言う愉しみなら寧ろ溺れたい
かも知れません。　　　（2004.7.12）

BOOK Cafe VOL.1　モダン古書案内　
昭和カルチャーの万華鏡　「古くて新しい」本のたのしみ

中央公論新社marble books MB11　　2002.3.28初版

本書自体もモダンなのですが、紹介されている数多の本も
またモダンで粋なものばかり。
昭和を回顧するのにこう言う切り口を持ってきますか。
惜しむらくは軽装版にする事とモダンな装丁に気を使った所為か
全く知識が無い人が世界に入り込むには困難であろうと思われる
事ですね。きっかけを作って戴いたのはかなり有難いのですが。
　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.14）

かめくん/北野勇作 イラスト：前田真宏

徳間デュアル文庫　　2001.1.31初版

最初にページを捲った時から概視感は付き纏っていました。
イラストの前田さん…どこかで…ア！漫画版の「遠い海から来たCoo」の！
いや、そっちもなんですが何だか文章の調子が前に一度読んだ感じが
ある様な…ああ、そうか。半分読み進んだ時に合点が行きました。
この小説は、一人称を使わずに見事に一人称文体を成立させているのです。
と、筆者の語彙では表現するしかありません。この様な快挙を見たのは
倉橋由美子さんの「暗い旅」以来かも知れません。
日常に潜むさり気無いSFをじっくり味わうのに良い一冊でしょう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.16）

挿絵画家･中一弥　日本の時代小説を描いた男
／中一弥、末國善己：構成

集英社新書　　2003.2．19初版

時代小説の挿絵の歴史に就いてお話されているとの事で
興深く拝読しました。逢坂剛さんの御尊父ですか。それはそれは。
恐らく数回絵も拝見したと思います。絵のタッチが変わって
行きつつも筋が一本通って居る様子が実に心強く感じられました。
小説を補いつつも小説を喰い過ぎない、職人としての心意気
なのでしょうか。白黒の濃淡のみで見事に構成された画風にも
心躍ります。アートな挿絵も良いのですが、こう言う粋な挿絵も
また良いものです。ぞくっとした色気も時にございますから。
　　　　　　　　　　　　　　　　(2004.7.19)

狂人の太鼓/リンド･ウォード

国書刊行会　　2002.10.10初版

黒と言うのは、ここまでの力を持ち合わせる色だったでしょうか？
木版画を連ねる事によって構成された『小説』は、静かに、そして
強かに心を打ち付けるのですよ。
作られた物語は多分一つなのでしょう。作者がそう意図した限りは、ですが。
　　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.22）

英国ミステリ道中ひざくりげ/若竹七海･小山正

光文社　　2002.7.25初版

実用書の部分を噛み締め、エッセイとしての部分でしっかり
旅行気分に同調しましょう。そして、一読した後に濃い目の
紅茶を挿れ、クリームとジャムをたっぷり添え狐色に焼いた
イングリッシュマフィンを食べましょう。
確実に体重は増加しますが、少なくとも幸せな気分になれる
筈です。貴方が甘いものを嫌いでない限り。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.22）

復讐医バロン/唐沢俊一：作、新巻ゆたか：画

学習研究社　　1996.6.12初版

珍作というべきか壊作というべきか若気の至りというべきか…
なんだかんだ言って唐沢俊一さんの原作と聞くと「ああ、そう
ですか」と納得してしまうのは何故なんでしょう。
内容についての書評は幾つかネットで拾えましょうから、筆者の
気の付いた所を一点。一話毎に最後の〆文句と言うのが付くの
ですが、其れが何だか矢鱈と古い印象を受けたのですね。筆文字
風の書き文字でしたし。
既視感も覚えていたのですが、はたと思いつきました。
「演歌の花道」やんか！と。これが原作段階であったのかそれとも
新巻さんのアイディアで加えられたかは知る所ではないですが。
それにしてもこの新巻さんの画風…何処かで見たような気がする
んですが…気のせいかなぁ。　　　（2004.7.27）

明治 大正 昭和　日本のポスター/三好一

京都書院アーツコレクション　　1997.6.1初版

アートと称したポスターを売り捌くも良いでしょう。
その美をちゃんとお判りの上で売り捌いているならば。
でも、その美を白々しいものに格下げさせるような
売り捌き方は御免です。
そう言う時にこそ、過ぎ去った時代のポスターを御覧に
なって戴きたい。アートと態々銘打たないものにも
美の精神がちゃんと宿っているとお判り戴きたいのですよ。
文庫本サイズのこの本に収められたポスターを全部原寸大
…いや。A4サイズに伸ばすだけでも真価を味わうには充分です。
　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.29）

竹久夢二　大正モダン・デザインブック/石川桂子・谷口朋子：編

河出書房新社　　2003.11.30初版

文房具から装丁まで…いや、実に様子が宜しいです。
千代紙までデザインですか…高畠華宵さんと言い内藤
ルネさんと言い、絵を描くだけでなく生活をアートに
してしまうと言うのは凄いです。
高橋克彦さんの小説の中に登場していた『セノオの楽譜』
表紙も多く収録してあります。これは確かに集めたく
なりますわ。其の侭拡大してポスターにしたくなりますもの。
自分に縁遠いセンスだから、余計に憧れるのでしょうね。
　　　　　　　　　　　　　　　　　（2004.7.29）