壷中の天国/倉知淳

角川書店 新本格ミステリー  2000.9.30初版

人間のスイッチなんて、何処で切り替わってしまうか判らないものです。
貴方のスイッチの在処を、問い詰める一冊でしょう。(2004.5.10)

バーボン・ストリート・ブルース/高田渡

山と渓谷社  2001.8.15初版

筆者がこの方の歌に触れたのは、某国営放送局で流された
『生活の柄』と『値上げ』が初めでした。
とぼけていながらきっちりと毒がある。美味しい毒を味わわせて
戴いたものです。ではこの本に毒はあるのかと言うとさにあらず。
むしろこの本では至極真っ当な事が説かれております。
ああ、そうか。拗けた気持ちで至極真っ当な言葉を受け止めるから
毒に聞こえるのですねぇ。  (2004.5.14)

ひらがな日本美術史/橋本治

新潮社  1995.7.25初版

学生時代この一冊に出会っていたら、筆者は多分至極真っ当に
文化財研究の方面に進んでいたかも知れません。その内包される
面白さに取り込まれて。美術史の本でもあり、美をさらりと
現代語で判り易く解説するなんて、ずる過ぎます(笑)
とりあえずはエッセイのつもりでお読みになるが吉かと。
その内に美術品の方も見たくなるでしょうから。特に素養は
要りません。素養はこの際却って邪魔になりそうです。
             (2004.5.14)

新本格猛虎会の冒険
/有栖川有栖、いしいひさいち、逢坂剛、佳多山大地、
北村薫、黒崎緑、小森健太郎、白峰良介、
ホック,エドワード・D/木村二郎:訳

東京創元社  2003.3.28初版

関西、特に瀬戸内海に面した地域に在住すると、まもなく
呪縛が一つ憑いて来ます。「付いて来る」じゃないのか?
いえ、意図的にこう打ってます。
阪神タイガース…愛すべき、そして時にはその傍迷惑さに
なんとも言えない感情を抱いてしまう、黒と黄色のツートン
カラーの呪縛です。
ミステリ界までその呪縛に汚染されなくても…等と侮るなかれ。
この本に限ってはその呪縛が見事に祈りに昇華され、そして作品に
一筋ならぬ風味をつけて居るのです。
ミステリの阪神和え、とくとご賞味あれ。  (2004.6.9)

文学がどうした!?/清水良典

毎日新聞社  1999.6.20初版

何時から文章というのは畏まって学ぶものになってしまったんでしょうかね?
確かに先人の言葉というのは良い御手本になるのですが、美しい言葉だからと
いって複写ばかりを世に流通させても仕方ないでしょう。
学ぶ前に空気を感じて呼吸する事こそが大事だよ、と改めて教えて戴きました。
そして、空気を文字に刻み込んで残すのも、又一つの文学なのですよね。
                (2004.6.9)

ぼくは、おんなのこ/志村貴子

エンターブレイン  2003.12.23初版

表題作についてのみメモ書き程度に。
この表題作に描かれている性の揺らぎは、恐らく女性の
描いた漫画だからこそ出せるものだろうと感じています。
女性の書いた文章でも出ないし、増してや男性の書いた文章や
漫画では残念ながら醸し出せない、間の良い揺らぎです。
幸せな条件が重なった佳作ですね。
漫画だからといって、侮っていては躓きますのでご用心。
                (2004.6.17)

豆腐小僧双六道中ふりだし 本朝妖怪盛衰録/京極夏彦

講談社  2003.11.30初版

世の中には箆棒な本ばかり出すお人も居るもので御座います。
…などと講釈士の口真似をついついしてしまいます京極さんの
この一冊。本の中身も豆腐なら形も豆腐にさも似たり。なんとも
味わい深き一冊であります。
大体が豆腐や大根には薬味や何ぞで味付けをして食してしまうのが
常と言うものですが、これは豆腐や大根が薬味の味に逆らわず、
薬味の味わいを生かすからこその事。豆腐や大根にも元の豊かな
味わいはしっかり御座います。ただその味わいに思い至る事が
平生から忘れられているだけのお話で。
薀蓄として読むか講談として思い三味線を爪弾きつつ読み流すか、
それは好き好きで御座いましょう。筆者の場合、講談としてのリズムを
掴んでから実に気持ち良く読み流させて戴きましたが。
                     (2004.6.21)

図書館であそぼう 知的発見のすすめ/辻由美

講談社現代新書  1999.5.20初版

図書館であそぶと言う発想は良いですね。実際、興味に関するキーワード
さえ拾い出す事が出来れば図書館と言うのは実に良い遊び場に変貌します。
喩えば妖怪の出てくる話にしたってまずは小説・昔話・漫画と大別され、
その大きな枝から細かい枝がちらりちらりと伸びるもの。探索すればするだけ
どんどん嵌る事が出来ます。
これって、ネット上でも応用が利く話なんですけどね。知的財産についての
考察書としても良い一冊です。  (2004.6.21)

伊藤晴雨自画自伝/伊藤晴雨:著、福富太郎:編

新潮社  1996.12.20初版

責め絵師としての伊藤晴雨ではなく、絵好きな翁・伊藤晴雨氏を
知るに宜しい一冊。氏の絵を交えた自伝を中心に構成され、氏の
筆遣いを知る為のきっかけとしても良い本でしょう。
                 (2004.7.3)

高畠華宵 大正・昭和☆レトロビューティー/松本品子:編

河出書房新社  2004.1.30初版

高畠華宵を知る為のハンドブックでもあり、華宵美人の絵を
多く収めた画集でもあります。華宵の『少年』を求める方には
物足りない部分もありましょうが、「美」という公約数の前では
それは些細な事なのやも知れません。
高畠華宵をとりあえず浅くやや広めに知りたいと思われるなら
一度手にとる事をお勧めします。そこから深みに嵌るは御随意に。
                (2004.7.9)