凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル1/北森鴻

新潮エンターテインメント倶楽部SS  2000.5.20初版

思えばこの一冊でこの人の作品に出会い、その世界の奥行きに
魅せられたのでした。しかもこの一冊には次のステップがちゃんと
仕掛けられていたのですね。
ネタバレ承知で言ってしまいましょうか。
冬狐堂シリーズへの掛け橋が掛けられている作品が収録してあります。
一読して納得の微笑を浮かべて戴ければ幸いです。
                  (2003.5.28)

『有害』コミック問題を考える 置去りにされた「性表現」論議

創出版  1991.8.10初版

過日一読を薦められた事があったものの、何となくきな臭い気配を感じたので
遠ざけていた一冊です。ふと思い立って読んでみました。
…どうやら漫画を取り巻く環境に多少の変化はあるものの、それに携わる人達の
心根には露程の変化も無いものと思われます。否、寧ろ劣化している人も居る
のではありますまいか?努々情報には踊らされぬ様、御用心御用心。
                   (2003.6.27)

よくわかる児童買春・児童ポルノ禁止法/森山眞弓:編著

ぎょうせい  99.11.20初版

今では多少内容が変わっている事と思います。
判りやすいマニュアルを作る為の反面教師にもなりましょう。
法の方向性としてはこの内容ならば概ね賛同します。
この内容が公平無私に施行された場合に限り、ですが。
                  (2003.6.27)

別冊太陽47 絵本U

平凡社  1984.9.25第一刷発行 1994.5.25第五刷発行

絵本そのままを集めたと言う訳では無く、大正から昭和にかけて
少年少女雑誌で活躍した挿絵画家さん達の仕事を集めた一冊です。
確固とした美意識を持ちつつ展開される、時には性を超越した香気を
発する絵の数々。絵に酔うとは、この事ではありますまいか?
                 (2003.6.27)

平等院鳳凰堂 よみがえる平安の色彩美
/平等院:編集、神居文彰:著

東方出版  2002.5.25初版

171×186mm、60ページと言うコンパクトな本でありながらその内包する美には
圧倒されます。CGと言う技術が歴史再現のロマンと結びつくとどうなるかと
言う端倪すべからざる実験です。
欲を言えば、もっと再現した部分を魅せて欲しい、と言う所でしょうか。
                   (2003.7.1)

マンガの居場所/夏目房之介:編著
宮本大人/瓜生吉則/鈴賀レニ/ヤマダトモコ:著

NTT出版  2003.4.28初版

一読して、ホッとしました。免罪符としての安堵ではなく、苦言を呈して
くれる大人に出会えた事に対する安堵です。
批評、ましてや時評程簡単に出来そうで実は難しい作業は無いのですが、
それをサラリとこなす執筆陣にはただただ頭が下がる思い。改めて自分は
アマチュアの端くれでしかないのだな、と自覚します。
七面倒なだけの『漫画論』を読む前の一読を強くお薦めします。
                 (2003.7.19)

教養としての(まんが・アニメ)/大塚英志+ササキバラ・ゴウ

講談社現代新書  2001.5.20初版

正直に申し上げれば、ササキバラ・ゴウ氏の著作として再構成増補して
出版すべき書です。大塚氏の文章はかつての煌きを失い、老人の繰言に
なってしまっている様な気がします。
『私的体験』を教養抔と言う妄言で飾って戴きたくは無かった。
この書を読んだ事を残念に思ってしまう次第であります。
              (2003.7.21)

漫画学のススメ/日下翠

白帝社  2000.1.20初版

中国文化圏の漫画と日本の漫画を比較してその文化の相違を浮き彫りに
しようとした野心作。図版も比較的豊かに揃えてあります。
おたく文化の外に居る人からこう言うアプローチをされると、おたくの
末席の碌を食む葡萄瓜は赤面してしまいます。おたくの性とは即ち消費
のみかと自嘲してしまいそうにもなりますし。
外から見える学問が必要なのですね。構築に時間がかかっても良いから。
                  (2003.7.27)

読んでから死ね!現代必読マンガ101/中条省平

文藝春秋  2003.6.15初版

タイトルで損してますね、明らかに。
真っ当な評論であるのにこう言う喧嘩腰で言われては門外漢ならずとも
疑ってかかってしまうというもの。内藤陳さんの名シリーズを倣ったと
言うのならば余りにも安易でしかありませんよ。
兎に角ご一読を。歯応えはあると申し上げておきます。
                (2003.8.2)

日本オタク大賞/鶴岡法斎:編

扶桑社  2003.4.30初版

マニアックな番組の記録なんですよ、一言で言えば。
一点を除けば非常に愉しんで読めるのです。

お願いですから女性オタク像とやおらー像を
マスコミ向けに歪めて納得させるのはお止め
下さいとフォントを大にして申し上げたい。
これは素で申し上げております。

この本の中で紹介されているオタク像、確かに非常にコアな地域に住まう
方々のものと言うなら納得はするでしょう。でもその方々はあくまで一部
の方々の肖像であってそれがオタクの基本形態では無いのです。

普遍性とオタクの関係についてしみじみ考えさせられる一冊です。
これをオタクの世界の進化というべきかそれとも日和見化というべきかは
判りませんけどね、ハァ。  (2003.8.2)