月ぞ悪魔 ふしぎ文学館/香山滋

出版芸術社  1993.10.10初版

この著者名を知らずとも、この方の原作の映画は人口に膾炙している筈です。
シリーズ化され、リバイバルされ、改作もされ、米国版も作られました。
そう。『ゴジラ』の原作者はこの方です。
(と、今更言わずともご存知の方が多いでしょうが)

内容としては極めて推理小説色が濃く、其の中に生物学の濃密な知識が
コレデモカコレデモカと鏤められております。
ゴジラに秘められた暗闇を愉しむには良い一冊か、と。
                   (2003.2.22)

神々の指紋 ギリシャ神話逍遥/多田智満子

平凡社ライブラリー  1994.7.15初版

罷り間違っても失われたと主張される『仮想文明』の解説書ではありません。
副題の通り、ギリシャ神話の解説・随想です。文体が凛としています。
ギリシャ神話の神々と言うのは古事記の神々と並んで日本人が良く知っている
神々なのでは無いでしょうか?
キューピッドも元々はギリシャ神話の神ですし、ヴィーナスもそう。
ほかにも案外出自を知らずに触れている神々は居ると思います。
神々の指紋に触れて、暫し夢を見ては?  (2003.2.23)

ペンネームの由来事典/紀田順一郎

東京堂出版  2001.9.20初版

電車の中でさらりと読み流すつもりの一冊でした。
が、それぞれの挿話を読んでいると誠に面白い。日本語や漢語由来の
筆名とはこんなに面白かったのかと思い直す程に面白い。
人間、様々な視点があるものです。(2003.3.1)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言使い/西尾維新

講談社ノベルズ  2002.2.5初版

装丁にコロリと騙される、と言うのは実際小説ではよく有る事
なんじゃないかと思います。重厚と見せかけて羽よりも軽い読後感に
何度遭遇した事か、とつい自分の言葉に黄昏てしまうのですが(苦笑)

手に取った時、正直言って箸休めのカスタードプリンを食べる感覚でした。
で、読み終えて後なんですが。
クリスマスプディングを10人前は食った心地です。胃凭れはしませんが。
                    (2003.3.3)

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識/西尾維新

講談社ノベルズ  2002.5.8初版

クリスマスプディングを食った腹に少しでも爽快感を送り込みたくて、
コカコーラを飲んだ訳です。流石にスッキリしましたね。
コカコーラの完全コピーはコカコーラ社にしか出来ないでしょう。
単純そうで居て複雑。つまり、この本もそうです。
                     (2003.3.3)

香辛料の民族学 カレーの木とワサビの木/吉田よし子

中公新書  1988.6.25初版

実例と共に軽めに香辛料(スパイスとハーブ)について解説が施されています。
図版は殆ど無いにも拘らず行間から漂う香辛料の香りのリアルな事ったら。
所々レシピのヒントがありますので、台所の隅に転がす本にはもってこいかも
知れません。一寸した知性の演出って処ですか。
身近な香辛料の開拓にもなりましょうしね。  (2003.3.3)

夢の事典366日/浅野八郎

講談社+α文庫  1993.10.20初版

彼の食通ブリア=サヴァランは他人の食事で人間鑑定をしたそうです。
何処まで正解だったか?それは文献に残ってない様ですので、何とも。

夢判断も一時本当に流行りましたね。
全部否定するつもりもありませんが、全てを夢が表すと言う
盲信だけは避けたいもの。参照程度に留めておくが吉なのでしょう。
起きている時まで夢うつつ、と言うのは洒落になりませんから。
                   (2003.3.3)

QED 六歌仙の暗号/高田崇史

講談社ノベルズ  1999.5.5初版

ただの牽強付会をミステリに織り込んで新説紛いにする…と言うのは
一歩間違うと駄作の謗りを大いに受けます。ミステリの要素が薄い場合は
今日『と』認定を受ける様ですが(苦笑)
最後の最後、実に爽快に騙されました。ここまで糸を織り直して戴くと
もうお見事以外に何も言えません。下手な暗号『史実』よりも面白い。
そして、静かに後を引くのです。  (2003.3.6)

悪戯王子と猫の物語/森博嗣&ささきすばる

講談社  2002.10.15初版

夫婦合作……と言うパターンですが、多分家庭内でこの本が話題になったのは
本として流通し、発売された後の事では無いか、と愚考します。
夫婦仲云々ではなくて、夫婦合作本を見て時々感じる居心地の悪い馴れ合い感が
感じられないんですね。完全に対等な表現者同士の丁々発矢は感じますが。
寛ぎたくて読んだんですが、読んで寛ぐ為には一度貪り読んで心を鎮めた後の方が
良さそうですね。読み流すには勿体無さ過ぎて。
                   (2003.3.6)

野生児の記録3 カスパー・ハウザー 地下牢の17年
/フォイエルバッハ,A.v.、中野善達・生和秀敏:訳

福村出版(株)  1977.6.10初版

カスパー・ハウザーを知っていますか?
TVのトーク番組で楠田枝里子女史が彼について目を輝かせながら話していた場面を
見たのをきっかけに関係する本を数冊読んだ覚えがあります。
幼くして幽閉され、幼児のままで育てられて『解放』され、知恵がついて過去を
思い出そうとしたらあっさりと天に送られてしまった。享年、推定22歳。
彼の出生に関する謎について考えるも良し、彼の感性の織り成す美しい世界を
味わうも良し。ただし、第2の彼を育てようと同じ環境を作ったならば、その存在は
悪魔以下だと葡萄瓜は認識します。  (2003.3.7)