ゲルマニウムの夜/花村萬月

文藝春秋  1998.9.21初版

性は聖に通じ、穢れもまた崇高に転じます。
人間の心とは常にに天国と地獄を往復し、一色で居たいと願いつつも
又混然一体を望むものなのです。それが滑稽であり、愛しい。
この中で描かれている関係はそれぞれ己に閉じこもる為の関係では
無いでしょう。閉じこもる為の関係ならば、もっと刹那的で良い訳ですから。
                    (2003.10.18)

もう猫の為になんか泣かない/柾悟郎

早川書房  1994.5.31初版

対象作品は収録の『冷たく白く痛い』『チューブラー・サマー』。
前者は思春期を経過する少年の心理をSF的に描いたものであり、後者は
男性同士の関係の受身側からの回想、と言うよりは愛されたかった少年の
回想録、とでも言うべき作品です。
性的描写がどこか淡々としているだけに切なく、そして、静かです。
そして残る、かすかな痛み。   (2003.10.18)

江戸の恋―「粋」と「艶気(うわき)」に生きる/田中優子

集英社新書  2002.4.22初版

「男色」について書かれた一章を参照しました。
江戸の男の粋さ加減もさる事ながら、その時代の男色を囲む環境に
しみじみ感じ入りました。肉欲で埋まらない溝があるからこそ精神性を
高めてその溝を埋めようとする人々。また流行に乗って手軽な享楽と
して男色を選択する人々。そしてその様子を見て自らの価値観でのみ
勝手に断罪をしてやまない渡来人。そのまま現代の縮図としても良い様な
気もしますが。平賀源内の身に起きた実例を引いて至極真面目に文章は
展開します。誠実な一冊です。   (2003.10.18)

猫道楽/長野まゆみ

河出書房新社  2002.6.20初版

男が本当に男であると自覚しているなら、男らしさに身を
やつす必要はありません。
男は我が身の中に猫を飼っているからこそ、そこから目を
逸らす為に男らしさに身をやつすのです。
猫の花開く描写に多少もどかしさを覚えますが、
それもまた様式美なのでしょう。  (2003.12.9)

ComicGAMEピアス VOL.1

マガジン・マガジン 2004.3.15発行

掲載作品は多分ツボに入ってるんです。少なくとも好みに合って
います。でも、何処かで気持ちが萎えてしまう。萌えのままドンと
突っ走る事が出来ないのです。
…何故だろうと読み返すと、何となく判りました。
過剰に可愛らしさを強調したキャプションや強調ロゴの故、
だったのですね(苦笑)乙女の為の雑誌だからこう言う演出に
しただろう事は判ります。でも、肝心の乙女が退きませんか?
ゲームの世界から紙の世界への展開方法としては異論は唱えませんが。
                    (2004.3.20)

年上の人 成層圏の灯/鳥人ヒロミ

SUPER BeBoyComics:BIBLOS 1999.1.10初版

やおいに現実感を求めると言うのは、実際野暮な事だと自覚しています。
やおいと言うのは元が親密な友情を傍観した上で発生する妄想であり、
ゲイセクシュアルな関係を観察し、咀嚼し消化した上で生まれる創作
ではないのですから。やおいの現実感は性的関係のみに顕れてさえ
いればそれで良かった筈なのです。
だから非常にストレートな現実感をもったやおい作品を目にした時に、
評者は戸惑い、『これはやおいではない』と規定する事で戸惑いから
逃げ出そうとするのでしょう。その戸惑いを此処で糾弾するつもりは
毛頭ありません。
この作品には逃れ様の無い現実感が漂っています。が、紛れも無く
やおいの落とし子なのです。やおいもまた、進化するものなのでしょう。
                     (2004.3.20)

週刊SPA! 1998年2月18日号収録
[ショタコン・ワールド]に溺れる男たち

扶桑社  1998.2.18発行

分析したつもり、理解したつもり…で、安心したいので
あればこの程度で宜しいかと。
表紙のあおった感じの見出しが本文読後、ふと白々しく見えます。
便乗と言うには少々情けない遺産ですね。  (2004.3.20)

江戸の性風俗 笑いと情死のエロス/氏家幹人

講談社現代新書  1998.12.20初版

章立てとして『男色の変容』と言う部分が有るのですが、寧ろ一冊全部が
萌えの手引書として使えそうな一冊です。
こうして見ると江戸時代と言うのは制度は兎に角として生活はユーモアと
理想に溢れた世界であったのかな、と思ってみたりしますね。
いや、ここから先の深みに嵌るのが楽しみな様な恐ろしい様な不思議な
気分です。いっそ泥濘に嵌ってしまった方が知識浄土へ赴けるのですけど。
                 (2004.3.27)

二青年図 乱歩と岩田準一/岩田準子

新潮社  2001.5.25初版

ページを捲る毎に溜息をついてしまいました。確かに小説なのです。
仮令実在の人物…平井太郎こと小説家・江戸川乱歩と男色史研究家・
岩田準一が登場人物であったにしても。
いや、この二人が主人公に置かれた『小説』であるからこそ妖しい
世界が醸し出されているのでしょう。
はっきり申し上げます。
この物語は『やおい』です。それも、生ものやおいです。
作者は岩田氏のお孫さんだそうですが…身内によって自分がやおい
小説の登場人物になろうとは、氏は一切予想し得なかったでしょう。
そして羨望すべき事は、この生ものやおいにはスキャンダルの腐臭が
一切纏わり付いていないのですよね。実存の世界を耽美に昇華した故に、
そういう腐臭から免れ得たのかも知れません。  (2004.3.29)

青い翅の夜 王国記IV/花村萬月

文藝春秋  2004.1.31初版

表題作に深く興味をそそられます。
少年愛行為・同性愛行為に対して語られている事どもは作者の持論でしょうか?
それともお上品な世間への皮肉でしょうか?実際はどちらでもありどちらでも
ないのかも知れません。解釈は読者に残された自由ですから。
ただ一つ言える事は、下手な評論よりもこの一作の方が余程明瞭に現実の一面を
示しているのではないかと言う事です。
所詮、外からの視線と切り捨てられてしまうかも知れませんが。
                    (2004.3.31)