パルタイ/倉橋由美子

新潮文庫  1978.1.30初版

『主義』に染まっているようで染まっていない作品集です。
その中で異彩を放っていると思うのは同性愛的な部分を扱った
『貝のなか』と『密告』の二篇でしょう。前者は女性、後者は少年によるものです。
淡々とした描写ではありますが、実際に描き出されている行為は生々しく、
同時に語られている正常な愛の形と言うものが色褪せてしまう瞬間さえあります。
筆の力とは、恐ろしいものです。  (2003.3.6)

旅宿(はたご)のおんな 秘蔵の名作艶本・第5集
/恋川笑山・葛飾北斎他 安田義章:監修 佐野文哉:訳

二見書房クラシックアートコレクション  1989.6.25初版

北斎の道具描写と笑山の男色図の為にこの本を入手した様なものです(苦笑)
笑山の男色図…『旅枕五十三次』の袋井の段に出てくるものですが、
一寸した後日譚があります。
当時は矢鱈と秘本復刻が流行ってましてよくよく書店店頭で見かけたものですが
(立ち読みも自由に出来てましたし)、その中の一冊に木曽道中の枕絵版が
ありました。その中の男色図の構図が笑山の袋井の段と全く同じだったのです。
下帯の解け具合までそっくりで…今思えば買って置くべきだったと(苦笑)
因みにこの本では一人旅の男が抜け参りの若衆に彼是世話を焼いて…と言う風に
なりますが、木曽道中では確か同じ店に勤めていた番頭さんと小僧さんが偶然
道中で出くわし焼けぼっくいに火がついた、と言う感じになっていました。
大らかと言うか、何と言うか。  (2003.3.6)

銀河郵便は“愛”を運ぶ/大原まりこ  忍青龍:イラスト

徳間デュアル文庫  2000.10.31初版

親本(1984年初版)を読んだ時には今一つノれなかったんですよね。
堅苦しいSFって訳じゃ無い。どちらかと言えばコメディです。
確実に葡萄瓜が好きな作風では有るのです。
………挿絵が美しすぎたんですね。あの当時は天野喜孝さんが
このシリーズの挿画を手がけていらしたと記憶していますから。
あのクラムジーじゃあの台詞は似合いません。今回のクラムジーだからこそ
生きる様な気がします。天野さんの絵が美しい事には変わりありませんけどね。
                    (2003.3.6)

両性具有の美/白洲正子

新潮文庫  2003.3.1初版

一足先に申し上げておきますが、この本は主に若衆・稚児の中に垣間見える
両性具有性について書かれたものであります。又『両性具有』とは言っても
女性的な匂いは殆ど感じられません。
衆道・稚児の下世話な部分にさらりと触れつつもその美・色香の正体を
撫で斬りで露わにしてゆく…ここで語られるのは確かに男同士の愛情です。
男色を精神面から理解したいと言う方の一助になりましょう。
                     (2003.3.7)

浮世絵春画と男色/早川聞多

河出書房新社  1998.10.20初版

多分この時代にしても画期的で有っただろう画集・解説書です。
圧倒されますね、男性自身の描写に(苦笑)本の価格にも圧倒されますが。
人物がある程度記号化されているのに対して妙にその部分だけがリアルだと言う。
純粋な男色だけが描かれているのかと言うとそうでは無いんです。
無いんですが…何となく女性の方が添え物にされてる様な気がしないでもない。
全体的に淫らなんですが、淫靡ではないんですね。陰に篭った感じが無くて
一寸拍子抜けって感じもします。それが江戸の『男色』だったのかも。
構図の参照用としても良いと思いますよ。着衣の上局部露出で事に臨むと言う
場面が多いですから。  (2003.3.7)

螺旋の涙/星逢ひろ

私家版(くるぐるDNA)  2001.12.29初版

絵柄の柔らかさからこの方に惹かれる、と言う向きも多いでしょう。
葡萄瓜とて例外ではありません。
でも、同時にこの人の書く物語は時折淋しさを何の前触れもなしに
投げ込んでくるのです。それも、さらりとした感じで。
淋しいと言う感情をさらりと描く事で、その陰翳が更に鮮やかになる。
其処から何が生まれるのかも楽しみです。  (2003.3.13)

PLEASE INCERT a COIN!/野火ノビタ

私家版(月光盗賊)  2003.2.9初版

ここで描かれるのはドライにならざるを得ない愛情。
全てを割り切る事ができるんなら痴情なんて事は発生し無いんですが、
それでも割り切ろうとせざるを得ない人間の抱く愛情。
心理学が発展したとしても、多分完全には解明されないと思いますよ。
それこそ、ケース・バイ・ケースなんですから。
                  (2003.3.13)

悩み多きペニスの生涯と仕事 Der Pinsel Der Liebe
/コールサート,ボー、江間那智雄:訳

草思社  2000.10.25初版

大学教授の筆による専門書…と言うと小難しくとっつき難い、と思われる
でしょうがさに非ず。対話形式を使って書かれているので非常に読み易いです。
専門用語はかなり出てきますが、保健体育の教科書をきっちり読んだ基礎知識が
有ればある程度想像力で補えるでしょう。図解も少しはあるので安心して良いと
思います。局部に過剰な幻想を抱いてる方に読んで戴きたいのは勿論、
過剰な妄想を健全に育てる為の資料としても大いに活用して欲しい、と読者と
しては思うばかりです。読んでる間苦笑が止まりませんでしたよ。
                  (2003.3.14)

ペニスの文化史 Histoires du pe'nis
/ボナール,マルク、シューマン,ミシェル:著、藤田真利子:訳

作品社  2001.8.30初版

葡萄瓜は医学上男性に属します。だから「持ち物」についてはある程度
判っている…つもりなんですが、時として思い込みも生じますので、
ちゃんと資料を読んで再確認しないと不安なのです。
で、この本を読んでみたのですが…読みではあります。
A6サイズ320頁ハードカヴァー頁当850字。硬からず柔らかからずと言う
感じで良い具合に納得させて戴きました。
思い込みは本当にいけませんね。ちゃんと資料の読み返しもやっておかないと。
民俗学から医学まで文化史を網羅した、良い一冊です。
                    (2003.3.18)

消えたマンガ雑誌/新保信長:編

MFペーパーバックス:メディアファクトリー  2000.2.14初版

廃刊・休刊になったマンガ雑誌を雑学風に色々考えてみる本。
雑誌に携わった漫画家さんのインタビューもあるので裏話を読む
楽しさもあると思います。サブカルチャー教則本ぶってない所がいいですね。
それにしても随分多くの雑誌が生まれては消えていったものですね…今なら
ネット配信という可能性もありましょうに(それじゃ商売にならんだろう?
はい、ご指摘の通りで)  (2003.3.26)