どすこい(安)/京極夏彦

集英社  2002.7.30初版

讀書録復帰第一弾がこれかよ、と失笑する勿れ。改めて作品の持つ破壊力に
近所迷惑考えず笑い転げてしまった葡萄瓜である。親本(ハードカバー)の
(仮)の時には苦笑しか覚えなかったのに…それ程笑いに飢えていたんだろうか?

否、そうではない。葡萄瓜の体型が愈々どすこいに近くなったので自虐も入った
笑いである…と言うのは半分冗談で、その実はスルメの如く噛み締めれば噛み締める
程湧き出る面白うてやがて哀しくそして又笑いが訪れるループ構造の笑いである。
予定調和のオチがいつも用意されていながらもそこに至る過程でパロディを織り込み
つつ進める手腕は流石に薀蓄の鬼の生みの親、と舌を巻くしかないが、最近葡萄瓜は
京極氏に対し疑惑を抱いている。

京極先生。本当は「どすこい」が地なんでしょ?(笑)
そうでなきゃここまで楽しくは書けませんもんねぇ…。               (2003.1.4)

音の晩餐/林望(はやし・のぞむ)

集英社文庫  1996.6.25初版

葡萄瓜の読書基準、「美味しそう」に引っ掛かったレシピ付エッセイ集です。
訓読みの著者名に馴染みが無ければ「リンボウ先生」でああと膝を打たれる方も
いらっしゃる筈。罷り間違っていれば葡萄瓜はこの方の居る世界の末席で録を
食んでいたかもしれません(勉強の真似事だけで費えてしまってますが)。

数々のオノマトベ(擬態語)に纏わって綴られる美味しそうなレシピ…。
はっきり言って、拷問そのものです。喰いたいし、造ってみたくなる。
変なグルメ本読むよりもあまりに肉薄した美味の描写なので、読んでいる最中に
腹を鳴らした事が度々(汗)

え、これも煩悩本なのか?
葡萄瓜にとっては立派な煩悩本です。食に纏わると言う意味で。  (2003.1.4)

モーツァルトは子守唄を歌わない/森雅裕

KKベストセラーズ   1997.8.5初版

『森雅裕幻コレクション』の1冊として復刊された、と聞き及んでいます。
葡萄瓜は有栖川るいさんの漫画化を通じてこの作品に巡り会えました。

これを幻にして平気、と言うのはどんな理由があったんでしょうね?
敢えて知ろうとは思いませんが。知らずとも良い事はあるかも知れませんし。
只、この本は本屋梯子して彷徨って探す価値はあるかも知れません、
と呟いておきましょう。漫画化だけ読んでそれで満足しているなら、
そりゃ勿体無い勿体無い。                 (2003.1.8)

光の塔/今日泊亜蘭(きょうどまり・あらん)

ハヤカワ文庫  1975.12.31初版

この本を読んで戴きたい方をまず指定します。
スター・ウォーズが好きであり、そして、鬼平犯科帳が好きである
お方には是非読んで戴きたく。つまり、そう言う感覚です。
それで判らなければ、ローマ字で浪花節を唸る、と言えば
…余計判り難いですね(苦笑)でも、薦めます。
独特の世界と、ローマ字を発展させた言語構造に、暫し酔って下さいませ。
                        (2003.1.23)

我が月は緑【上・下】/今日泊亜蘭

ハヤカワ文庫  1995.10.15初版(上下とも)

「光の塔」の続編的位置に存在する作品。でも、内容はガラリと違います。
「光の塔」が鬼平犯科帳ならこちらは差し詰め遠山の金さんだ。
それも役者指定を入れるなら中村梅之助さんか杉良太郎さんか。
ここまで雰囲気を伝えれば充分過ぎるネタばれかもなぁ(苦笑)
葡萄瓜のSF煩悩が今だに醒めない原因、かも知れません。
流石日本最高齢SF作家の手腕。明治生まれは、ほんに偉大です。
                       (2003.1.23)

尾崎翠(おざきみどり)  ちくま日本文学全集

筑摩書房  1991.11.20初版

続いては大正から昭和初期にかけて密やかな人気を博したと言う、
幻想的な文学をご紹介。収録作である「第七官界彷徨」「アップル
パイの午後」でこの方を知られた向きもいらっしゃるかと思います。
幻想に陶酔している様で、あくまでも冷静な筆致。そして、控えめに
語られる、確固とした主張。
幻想文学をお好きだと仰るなら、是非お読み戴きたいと思います。
幻想文学を読んだ事が無いと言う方は、この1冊を入口にして戴きたく思います。
                         (2003.1.23)

妖怪馬鹿/京極夏彦・多田克己・村上健司

新潮OH文庫  2001.2.10初版

この本を厳密に分類するとすれば民俗学-妖怪関連となるでしょう。
確かに妖怪について書かれた本には違いないのですが、葡萄瓜には
著者のお三方も妖怪に見えて仕方ないのです(苦笑)
特に京極さん。先生、本職は妖怪漫談師だったんですね…--;
この本を読んでから「どすこい」を読むと京極さんの本質が
よく判る…と言うのは偏見でしょうか?多田さんと村上さんのボケ加減と
京極さんのツッコミは、確実に貴方を別世界に誘うでしょう。
お得な事に京極さんの描いた漫画も多数掲載…って、いっそ京極さんに
あの探偵さんの話を自分で漫画化して欲しいと願ってしまいそうです、はい。
                               (2003.1.28)

黒猫の三角/森博嗣:原作、皇なつき:作画

あすかコミックスDX  2002.8.1初版

森博嗣と言う作家さんは、漫画化の際作画者にかなり恵まれていると思う。
少なくとも葡萄瓜が目にしている範疇では、ハズレが無い。
漫画化された分を読んで意欲的に原作を改めて読み耽りたい、と思える例は
かなり少ないですしね。打ちのめされて逃避的に原作で癒される事は多くても。
葡萄瓜は根っからの文系人間なのですが、その文系人間に「理系って、おもろい
やん」と思わせるのは原作の力と作画の力の相乗効果と思いますよ。
良い時代に生まれさせて戴きました。ええ、本当に。       (2003.1.28)

山海経 中国古代の神話世界/郭璞  高馬三良:訳

平凡社ライブラリー  1994.1.14初版

「妖怪馬鹿」でも取り上げられた中国の古典です。
経と名がついていますが仏教関係の本ではありません。言わば博物誌、
動物図鑑、と言った所でしょうか。
(手元の辞書では経;聖人の書物、とありますね)
但し、これが普通の博物誌ではない、と言うのは本の副題から
想像なされると思います。神話世界って、一体何事?と。
この中に描かれているのは、現実に存在しながら情報伝播の過程に
よって姿を歪められた動物達・人達なのですね。
一種の妖怪図鑑と思って戴いた方が良いのかも。      (2003.1.28)

大極宮/大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき

角川文庫  2002.9.10初版

これは、大沢オフィスオフィシャルサイトの連載の活字化作品です。
従って、運が良ければ該当過去ログは読みに行く事はできる筈です。
但し…お三方の事後ツッコミは多分付いてませんのでご了承を…。
オフィシャルサイトだけでも面白いのに更に笑わせる事後ツッコミ…
作家生命に余裕を感じてるから出来る技なのかそれとも自棄のやん八なのか。
ここでも京極さん、イメージ破壊中です(笑)
京極さん、小説以外のお仕事減らして…しまうと他のお仕事の成果で
楽しめない、ですよね。京極さんの他の仕事も好きなだけに悩みます。
何でこんなにメンバーのバランスが良いんでしょうね(苦笑)  (2003.1.28)