女王の百年密室/森博嗣:原作、スズキユカ:作画

幻冬舎コミックス  2001.12.24初版

親本(原作)も読んでますがあえてこちらで。こちらの方が作品世界を理解するのに
相応しい感じがするので。活字を生かしたトリッキーさも好きなんですけどね(苦笑)

最近になってそう言う事は少なくなったんですが、原作付のコミックスと言うのは、
正直「ハズレ」が多かった。読者の分際で言うのもなんですが、ドラマ化以下の
痛々しさがあまりにも目立ってました(あえて作品名は書きませんが、ドラマ化も
多数のシリーズと申し上げておきます)。
翻って最近は9割9部の割で当りが勝っている。心底安堵してます。後はその中の
嵌り度の僅差と言うだけでしょう。これはもう個人の好みの問題ですから踏み込み
ますまい。

で、個人的な好みで言ってしまいます。このコミックス化、大成功です!作品の持つ
温度も実に忠実に伝えてくれています。そして、活字でしか表現しきれない部分も、
実の所上手く表現されているのです。後は、絵のお好みでご選択を。(2003.1.4)

働く少女/常盤易成(ときわ・かねなり)

光風社出版  1995.12.25初版

先日のイベントでの雑談中の事です。
最近の腐女子の実態を知る参考書として反島津小太郎『C』(徳間書店)を
突きつけられて云々、と言う話が出ました。何でも、鬼の首を取ったかの様に
『これが実態か!』などと言われたそうな。

吉本新喜劇調のものがドキュメントとして通用するなんて、
世の中変わりましたねぇ(微笑)

最近はお約束のデフォルメさえも漫画の中で出来ないらしいですね(苦笑)
他にもあるだろう活字による『やおい分析本』よりは易しいと思って漫画に
飛びつくのでしょうが………あんさん、まだまだ青い。
どうせならこの漫画も読んで『微妙な距離』に微笑んでこそ初めて腐女子を
理解したと言えるのでは?と葡萄瓜は思います。

こう言っちゃ何ですが、人間、一皮剥けば皆しゃれこうべですよ。(2003.1.8)

永遠はありますか?/よしながふみ

私家版(大沢家政婦協会)  2002.12.28初版

ここで同人誌を出すのも卑怯か、とは一瞬思ったのですが、
一応一世を風靡した『西洋骨董洋菓子店』の作者自身による補完本では
ありますし、冷静に感想を述べようと思います。

…他の作品と併せて、後日譚1巻として商業発行しても良いんじゃないですか?
環境さえ許すならば。正直、そう思います。阿諛追従でも何でもなく。
むしろ作品の色彩として、こう言う後日譚は在っておかしくないし、作者自身が
秘すれば花と思わない限りは描くべきだろうと思います。
この作品と心中するつもりが作者にあるならば、ですが。

葡萄瓜にとっては好感触の作品でした。読む機会を戴いた事に、深く感謝。
                             (2003.1.8)

ComicCity in大阪43パンフレット(カタログ兼用)

赤ブーブー通信社/ケイ・コーポレーション  2003.1.5発行

飛び道具を出して卑怯極まりない!
そう責められても仕方ないと思います。でも、厚みにつられついつい
書いてみたくなったのです。1.6センチですか…あはは。

カット添付のサークル紹介部分が1センチに及ぶ…かなりサークル人口が
増えてませんか?最初は広告が多いんだろう、と高を括ってたんですが、
改めて観た所そうでもない。当日も本当に人口が多かったし。
(人口密度は…あんなもんでしょう)
季節による変動も多少はあるのかもしれませんが、矢張りジャンルの
栄枯盛衰も関連するのでしょうねぇ。
自ジャンルが又少し盛り返してた様なんで、葡萄瓜は嬉しいのですが。
                           (2003.1.8)

カーニバル 一輪の花/清流院流水

講談社文庫  2003.1.15初版

この作者ならデビュー作から取り上げるべきでは、と言う声が聞こえそうです。
お説ご尤も。只、余りにインパクトがあったもので、早々に取り上げます。

なんですか、このルビの山は^^;
冗談抜きにルビは多いです。この本が読み難いとしたら、
それはルビの所為でしょう。特殊な用例だけなら兎に角、慣用例までルビを
振ると言うのは…まさかこれもトリック?そんな筈は無いでしょうが。
ノヴェルズ版をお持ちの方も新鮮な気持ちでお読み下さい。内容は、読み易いです。
                            (2003.1.28)

エキストラ・ジョーカー JOE,KER
/清流院流水:原作、蓮見桃衣:作画

あすかコミックスDX JOE;2001年9月1日初版、KER;2002年6月1日初版

タヴーを侵して2つだけネタばれさせて戴きます。
この作品と講談社から刊行されている「ジョーカー」は似て異なる物語です。
原作者が改めて原作をリライトした為生じた世界と理解して下さい。

と、これで終わっても仕方ないので蛇足を。
作画の蓮見さん、あなたは偉い!よくぞこの原作を作画して下さった。
原作(と言うか原典)については別項で触れますが、これは映像化しようにも
し難い代物だと思うのですよ。映像化可能の要素はてんこもりなのに関わらず。
それをとりあえず二次元に変換できただけでも凄い事では無いか、と。
これ以上は又新たなネタばれを生みますので一端筆を置かせて戴きます。
                             (2003.1.28)

江戸の少年/氏家幹人

平凡社ライブラリー  1994.10.15初版

「江戸」に生きた少年達の生活を通じて展開される民俗学。
改めて読むと『男は永遠の少年』と言う言葉の嘘と真が見えてきます。
少年と自称するのは勝手でしょうが、少年であり続ける努力を放棄して
その台詞を吐いて欲しくはないものです。
『少年』と言う限られた時間の中で行われる蛮行と冒険…それは
少年を男に変貌させる為の必要悪ではないでしょうか。
衆道に触れているのは全体の一割少し。が、その部分が妙に心に
引っ掛かるのは何故なんでしょうね。      (2003.1.29)

悪魔のトリル/高橋克彦

講談社文庫  1989.1.15初版

怪奇短編集で、どの話もストンと落とす妙味があります。
邪ま…と関連付けられそうなのは表題作なんですが、カバー裏の紹介で
もうネタばれされてる様なもんですからこれ以上筋書きは書きますまい。
あくまでも匂いに近しいものがある程度ですし。
恐怖よりも哀しみの方が浮き彫りになる…そんな一冊です。(2003.1.29)

武士道とエロス/氏家幹人

講談社現代新書  1995.2.20

やおい読み解きの参考書として読んでみました。
で、ここで考え込む訳です。やおいって、恋愛なんでしょうか?と。
ここで扱われているのは戦国時代から江戸時代に掛けての『衆道』と
明治時代の書生間での『男色』なのですが、この二者間でさえ時代は
連続している筈なのにちらほらと違いが見え隠れする。
葡萄瓜の所感から言えば前者は社会的構造も絡んだ機能ですが、後者は
個人の快楽としか認識できない。精神性・友情の延長を謳いながら、
実は欲の投影なのでは無いか。
データ集としても役立つ一冊です。無論、参考文献案内にも。
                          (2003.1.30)

ポポイ/倉橋由美子

新潮文庫  1991.4.25初版

美は、命は永遠なのでしょうか?
もし永遠に近いものを手に入れたら、本当に幸せになれるのでしょうか?

物語としては極めてSF的な舞台設定です。
首だけの美少年・AIを仲立ちとしてでないと成立しない会話・陰謀の気配。
そして、其の中に生命と美に就いての諧謔的考察が織り込まれます。
デジタルな感情処理の様で、限りなくアナログに近い世界の展開。
87年刊行のハードカヴァー版(福武書店刊)を入手し、物語が淡々と
旧仮名遣いで展開される様子を味わうも良いでしょう。  (2003.2.1)