やおい事典の編纂過程
〜『蒼き狼たちの伝説X』をサンプルに〜
(2003.7.30)

今回の雑文は手前味噌の楽屋オチながらやおい事典の編纂過程を
ご披露したく思う。素材は『蒼き狼たちの伝説X』。『R』もあるじゃない
かと言うお声もあろうが、ここはやおい的によく知られている『X』が題
材に相応しかろうと言う事で。
では、先ず現在新版に置き換えられている旧記述群を御覧戴きたい。

A)2003年4月27日 17時32分記述。

正式名称は『銀河帝国の滅亡外伝 蒼き狼たちの伝説X VOL.1 7番目の男』。
フェニックス・エンタティメント製作。1996年度作品。
SF(スペースオペラ)と同性愛を一緒に料理しようとした野心作。
『薔薇族』の協力もあったとエンディングのテロップには見える。
然しながら、これをやおいと強弁するのは筋肉萌え等が成立した
現在なら兎に角当時としては相当な無理があったのでは無いか?
なお、記述者の記憶では当時市販と前後して『純一』誌上でコミック
化した短期連載が掲載され、その連載終了後暫らくして『ブレス』
誌上でも連載が始まり…一話載った限りで『ブレス』は休刊になった様な…。 

********************************

B)2003年4月29日 17時2分記述

コミック化連載の件、資料の一部が入手できたので追記。
『manga純一』96年10月号(96.10.1発行/光彩書房)に相沢たつきに
よるコミック化第3回が掲載されている。話の進行から考えて連載と
しては都合4回では無かったか。又、掲載部分を見て思い出したのだが
連載に先立って1回製作会社のインタヴューと内容の粗筋掲載があった
筈だ。其処から逆算して(当誌は隔月刊だったから)96年4月号から
5回に渡って(内ストーリー4回)連載されたのではなかったか。
其処から考えるに恐らく『ブレス』誌上にて掲載されたのは97年初頭
と思われる。もしかすると『ブレス』の(事実上の)最終号に当る号
だったのやも知れぬ。

*******************************

C)2003年5月3日 19時34分記述

相沢たつきによってこの作品がコミック化された情報はネット上では
現在殆ど無い様である。その理由をあげるならば、
1)単行本化されていない、2)絵の趣向が動画作品の絵柄とは離れて
いるの二点だろうか。同人誌と言う形でさえ総集編は無かったの
だろうか?

*******************************

D)2003年5月12日 13時19分

ブレス掲載と思われるコミック化作品について思い出した事を一つ。
記述者の記憶によれば作画者は当時ComicBoxJr.誌上ガンダムウィン
グ特集内に於いて作品を掲載していた同人作家の一人であったと思
う。資料を入手する事があれば確認して置きたい。

********************************

E)2003年7月12日 18時13分記述

当時製作に携わったフェニックス・エンタティメントはOVA『ジャイ
アントロボ』(横山光輝原作)がヒットし、順風満帆態。その勢い
を借りてこの作品を作ると言う冒険に踏み出したものと思われるが、
一度倒産の憂き目に会ったと聞く。
その後復活し、多岐に渡るジャンルのアニメ製作に携わるという情報を
ネットでは得るものの、この作品に再び携わるという情報は一切聞かれ
ない模様。
ネット上では『フェニックス エンタテインメント』のキーワードで
その業績の数々が検索できよう。 

********************************

F)2003年7月12日 18時16分記述

海外では『Legend of the Blue Wolves』また『Legend of the
Four Horsemen/Blue Wolves』という名で親しまれている作品との事。
スコーピオンアニメ(http://www.scorpion-anime.com/)と
言うアメリカのやおいアニメビデオ取扱会社(?)が現在アメリカでの
メディア販売を担っている模様。
どうやら海外ではHentaiYaoiとして高く評価されている模様。
評価ページ
http://www.hentaineko.com/html_peek/peek_anime_bluewolves.shtml
http://www.boysonboysonfilm.com/reviews/
legendofthefourhorsemen.html


***********************************

G)2003年7月12日 18時16分記述

英題新バージョン追加。
『Legend of the Four Horsemen/Blue Wolves Version X』

***********************************

H)2003年7月24日 15時13分記述

『manga純一』96年4月号入手できたのでデータ追記。
『純一』誌上での短期連載企画はフェニックス側から持ち込まれた
タイアップ企画の延長線上にあるらしい。但し、この号の予告の
段階では作画者については一言も触れられていない。もしかすると
新人発掘企画の一部としてこの連載が計画されたのではないだろうか。

************************************

I)2003年7月28日 21時51分記述

『ブレス』97年1月号(97.1.17発行/ヒカリコーポレーション刊)掲載を
確認。作者:湯島ショーヘイ/『FirstContact』なるタイトルで掲載されて
いた。
同誌12月号(96.11.15発行)掲載の予告から想像するに、ブレス誌では
ビデオシリーズ全編の漫画化が計画されていたらしい。
同誌1月号に掲載されていたのは言行ビデオのダイジェスト版漫画化で
あった。
又、『純一』6月号(96.6.1発行)を観るとこの漫画化が相沢たつきの
デビュー作品であった事が判るし、同誌8月号(96.8.1発行)を観る
と第2巻発売までは計画が進行していた模様。 

Aの時点からIに至るまで3ヶ月掛かったのはご愛嬌だと思って戴けると
有り難い。ここでは各記述を行った時点でどう言う作業が為されていた
かを記しておきたい。
先ず端緒となったAの記述。そもそも『蒼き狼たちの伝説X』(以下
『蒼狼』)の件をやおい事典に加えようと思ったのは、やおいの歴史の
中でどう言う形にせよこの作品について触れておかねばならないという
発想から。
コミック化の件に触れたのはあくまでも記憶による覚書と言う程度。この
項目設定の時点では他の誰かの記述に『蒼狼』コミック化の件が書いて
あるとお気楽に構えていたからである。項目設定をした後、検索結果一覧
を見て愕然としたが。
この時点で行った事典編纂的作業はビデオ作品の正式タイトル確認と現
物の通し観による情報拾い出しのみ。

Bの時点で事態は少し進行する。この時点で『manga純一』(以下
『純一』)96年10月号を入手。検索結果一覧を確認した後、コミック化情
報は自身の記憶に拠る曖昧な記録なので削除するべきかと迷っていた時
だったので、このまま資料探索を続行してより正確な情報を記載しようと
言う弾みがついた。『ブレス』掲載時期についてはその時点では記憶に
拠る曖昧な情報のまま。但し、『純一』入手により少し時期を確定する事
が出来た感はある。
『ブレス』最終号云々に関しては当時の版元の倒産についての噂を聞いた
事に拠る覚書的なもの。

Cの時点では『純一』96年12月号を入手していた。が、特に新規に拾い出
す情報も無い。そこで何故コミック化作品が顧みられなかったのかを自分
なりに考えてみた。この部分は情報と言うよりも読み物的な記述である。

Dの時点では資料入手一切なし。資料収集の過程でComicBoxJr誌のバ
ックナンバーを探していた時にふと思い出した事を覚書程度に記述。
『ブレス』掲載関係についてせめてもの足掛かりが欲しかった故に。これ
以降進展は無く作業はストップ。

E以降作業は急展開する。これは『蒼狼』関連の調査作業を他の方と連
繋して行わせて戴いた為。E/F/Gに関しては今まで見落としていたネッ
ト上での情報に改めて着目した。殊に海外での扱いに関しては目にして
いたものの情報に触れる事無く済ませていた。又、公平を期する為に資
料ページURLを記載した(ここではリンクを貼ってある)。
これらの記述をした後に資料入手先の開拓を改めて考える。それまでは
自ら心当りの古書店経由で資料収集していたが…。
『薔薇族』周辺の資料の一部もこの時点で拝見するが他所様のサイト掲
載の検証結果が優れている為、敢えて当事典では触れまいと決定。
(相互リンク先の『青猫飯店』様参照)

Hの時点でネット古書店経由の資料収集に着手。在庫があった事に安
堵すると共に資料を見て当時のBL世界の大らかさと言うかいい加減さ
に思いを馳せる。記述については資料からの推測のみで一切私情は挟
まなかったつもり。

Iの時点でコミック化についての資料がほぼ間違いなく揃う。今回の資
料入手先もネット古書店。
記述については資料から拾えるデータを整理したのみであって、私情
追憶は一切挟んでいない。目を通す時にかなり懐かしさを感じはしたけ
れど。

******************************

さて、やおい事典(CGI版)は記述追加式の事典であり、HTML版は50語
増加を目安に汎用前提で公開しているCGI副産物である。
だからこの旧記述版でも公開して差し支えがあるというものでもない。
が、『蒼狼』についてちゃんと調べたいと言う方には甚だ使い難いのでは
無いかという惧れを感じた。
その為、7/29の時点で整理し、纏めなおして再掲したのが下記のもので
ある。

1)
一般で入手できる限りのデータが凡そ揃ったようなので、ここで一旦記事を
集約整理しておく。記述者の記憶のみに頼った記述は一部割愛した。
OVAとしての正式名称は「『銀河帝国の滅亡外伝 蒼き狼たちの伝説X』
VOL.1 7番目の男」。フェニックス・エンタティメント製作。1996年度作品。
SF(スペースオペラ)と同性愛を一緒に料理しようとした野心作であり、製
作に当たって『薔薇族』の協力もあったとエンディングのテロップには見える。
現在でこそ『やおいOVAの名作』として認識されているが、当時はむしろ
男子同性愛者層向作品として認識されていた模様。
なお、ボーイズラブ雑誌「manga純一」96年8月号掲載の同社タイアップ企画
の記事に拠れば、その時点でシリーズ第2巻の発売はほぼ決定していた模様。
概要も伝えられていたらしい。又前後して同誌6月号に拠ればサウンドトラック
CDも製作され、通販されていた模様。
当時製作に携わったフェニックス・エンタティメントはOVA『ジャイアントロボ』
(横山光輝原作)がヒットし、順風満帆態。その勢いを借りてこの作品を作る
と言う冒険に踏み出したものと思われるが、一度倒産しその後復活、多岐に
渡るジャンルのアニメ製作に携わるという情報をネットでは得るものの、この
作品に再び携わるという情報は今日まで一切掴んでいない。その業績につい
ては『フェニックス エンタテインメント』のキーワードで検索できよう。 

2)
海外では『Legend of the Blue Wolves』また『Legend of the Four
Horsemen/Blue Wolves』という名で親しまれている作品との事。また、
『Legend of the Four Horsemen/Blue Wolves Version X』という
名称も見る事ができる。 
スコーピオンアニメ(http://www.scorpion-anime.com/)と言うアメリカの
やおいアニメビデオ取扱会社(?)が現在アメリカでのメディア販売を担って
いるらしく、海外ではHentaiYaoiとして高く評価されている模様。
評価ページ
http://www.hentaineko.com/html_peek/peek_anime_bluewolves.shtml
http://www.boysonboysonfilm.com/reviews/
legendofthefourhorsemen.html


3)
尚、当時作品プロモーションの一環としてかボーイズラブ雑誌『manga純一』
(隔月刊/光彩書房刊)と『ブレス』(月刊/ヒカリコーポレーション刊)に
相次いでコミック化作品が掲載された。
コミック化関係については当初記述者葡萄瓜XQOの記憶にのみ存在する記録
でしかなかったが資料収拾によりデータを補完できたのでここに僅かながら
書誌的データを纏める。
これらコミック化作品についての言及が無かった理由としては単純にビデオ
作品との絵柄が違うと言う点も挙げられるが、大きな理由はこれらの作品が
単行本に収録されず、再び日の目をみる機会を与えられなかった事ではなか
ろうか。同人誌にさえ再録されなかったのか気になる所である。
『manga純一』掲載:
タイトルは「蒼き狼たちの伝説」。相沢たつき:作。本編は96年6月号より
4回に渡って掲載。内容はビデオ作品のコミック連載化。同年4月号から最終
回掲載の12月号に至るまでフェニックス側とのタイアップ企画ページが併せ
て掲載されていた。(なお同誌は該当月1日発行)
このタイアップ企画は4月号掲載の記事から察するにフェニックス側から持
ち込まれたものの様である。そしてタイアップ当初の段階ではコミック化の
予定は無く、打ち合わせの時点で突発的な企画としてコミック化短期連載が
決定事項とされ、プロとしては全くの新人であった相沢たつきに白羽の矢が
立った模様である。然様、この連載が相沢たつきのデビュー作であった。
なお、4月号掲載記事にはコミック化作者については一言も触れられていない。
『ブレス』掲載:
タイトルは[FIRST CONTACT]『銀河帝国の滅亡・外伝 蒼き狼たちの伝説』。
湯島ショーヘイ:作。97年1月号(VOL.16)(97.1.17発行)掲載。連載全体
の予定としては当初計画されていたビデオシリーズ全巻分のコミック化だっ
た模様。当該号掲載は現行ビデオのダイジェストコミック化。
ブレス誌での連載は純一誌の企画に比べ、ある程度周到に根回しをされた上
実行に移されたものだった模様。同誌12月号(96.11.15発行)には湯島ショ
ーヘイ作画による掲載予告が存在したし、同じ号の読者欄には同じく湯島シ
ョーヘイ作画によるビデオ作品の一般販売開始とレンタル開始の告知が掲載
されている。
版元:ヒカリコーポレーションの倒産さえ無ければ力作として後世に残った
であろう。
なお、この掲載作品が見つかり難い理由としてもう一点挙げるならばそのタ
イトル故に、であろう。12月号掲載予告にはビデオ作品のコミック化である
と言及してあるにも関らず、肝心の掲載された1月号表紙には[FIRST CONTACT]
とのみ記されただけ。世間へのアピールが今一歩だった模様。

再掲にあたり、先ず記述を大きく三段落に振り分け直した。
1)でビデオ作品本体に関しての情報、2)で海外に於ける
作品の評価。3)でコミック化作品についての情報纏め。
旧記述A/E/Iを再編成し、改めて1)を構成。又説明が
足りないと思われる部分は言葉を補った。
次いでF/Gを合成して2)を生成。これは平易な作業で
ある。
さて難関なのは3)の生成である。この部分については
当事典のみしか扱っていないといって良い情報部分なので
切りよく纏めようとしたのだが、つい詰め込みすぎてしまっ
た。
A/B/C/H/Iの情報を先ず『純一』分と『ブレス』分に
振り分け。Dに関しては今だ当該誌が見つからず、記憶
違いの恐れもある為混乱回避の為割愛。Cの所感及び
情報散逸理由推定については両作品に共通すると思われ
るので全体的な情報扱いとした。
更に本編以外のコミック誌資料から読み取れる情報を
追記。その上で僅かに所感を加えて定型とした。

**************************

これからも皆さんの役に立つやおい事典を編纂して行きたい
と思う。又、『蒼狼』についてはこれからも新規情報を収集
出来次第、記述すべき記録は記述しておきたい。