「今日和ぁ」
「…今日はえらい客が続く日ィやなぁ……珍しや、お嬢かいな。ささ、
上んなはれ」
「お邪魔しまぁす。相変わらず本一杯あんねんなぁ」
「財産はないけど胃散はある。胃散の繋がりで小銭も入るしな。で、
どないしやはった」
「何やのんな(笑)まずはこれ。お父ちゃんからのお遣い物の塩タン」
「おやおや、瓢箪から駒がでたわ。後で有り難く戴くとするかいね」
「で、これはうちからお爺ちゃんに」
「えらいええ酒持ってきてくれて。どう言う風が吹いたんやろか」
「お父ちゃん締め上げてショタコンの話洗いざらい訊いたんよ」
「コレコレ、女の子やねんから物騒な物言いは止めなはれ」
「でな、お礼ついでにお願い事したらあかん?」
「お願い事、当ててみよか」
「うん、当ててみて」
「やおい調べの事を訊きたいんと違うか?」
「凄い!ぴったり当ったァ!」
「ほんとは私の方があんたらに教えて貰う立場やねんけどな」
「でも、うちらの間でも何やごちゃごちゃしてて判らへんねんもん」
「ほうかいな。まあ、私が今教えてあげられるんは現代用語の基礎知
識に書いてあった事の纏め程度やけど、それでええかいな」
「うん、ええよ」
「まずな、やおいと言う言葉がこの本に出てくるんが1988年やから…
15年前かいな」
「割に古いんやねぇ」
「あんたらにしたら古いやろなぁ。で、その時はな、見出しでもなん
でも無いねん。同人誌の説明の一部」
「そんなもんなん?」
「大人の造ってる事典やからなぁ。其れがちょこっと詳しくなるんが
1990年。註釈が語源+簡単な説明になっとる。あらま」
「どないしたん?」
「おもろい言葉が載ってるわ。やおい族、やて」
「えー?何よそれぇ」
「おたく族の中の一部の少女アニメファンの事を指してこう言う、
って…ケッタイな説明やなぁ」
「おたくって一族やったっけ?」
「サークルやと私は思うとったけどな」
「独立項目にはいつなるんやろか」
「次の年にはなっとるがな」
「次って91年?言葉登場から4年目で項目になったんかぁ」
「そこから一寸奥歯に物が挟まるねん」
「何で?」
「よう読んでみ?ショタコンと少年愛が合わさってやおいになった
って書いてあるやろ?」
「ホンマや。少年愛の事を耽美と、耽美の事をJUNEと言ったってなっ
てる。24年組って何なん?」
「少女マンガの一時代築いた人等の事やったかな。お嬢は風と木の詩
とかは読んだ事あるか?」
「ああ、あの先生そうなんや」
「確かトーマの心臓の先生もそうやねぇ」
「で、内容はホモアニパロって…一寸何とも言えんな」
「なんやえげつな…。あ、92年何かおもろい」
「ほう、何ありました?」
「やおいを不条理ナンセンスマンガと勘違いしたりしたんやって…
これって、伝染るんですのあの先生とか?」
「そうやろなぁ。そら解釈としては確かにやおいか知らんけど、流れ
から考えたら意味がおかしいなぁ」
「なあお爺ちゃん。93年からえらい現実に歩み寄ってない?」
「おこげブームに影響与えたり研究対象にか…なんか権威付けの匂い
するんは私の気の所為かいな」
「で97年の説明はショタコン+美少年だけになってる。なぁ、美少年
って耽美なん?」
「一寸難しいなぁ。私はそれは少女マンガに描かれる美少年やと思う
事にしてる。生身の美少年が耽美になろうと思ったら写真かビデオの中
でしかなれんからね。素で耽美になろうと思ったら余程自分に自信あっ
て、周囲も認めてないと勤まらんと思う」
「フーン、そんなもんなん?」
「そうなん違うかなぁ」
「後はずっと変わってないねんね?」
「2001年版でカップリングやスラッシュが出てくるなぁ」
「何や判った様な判らん様な…やおいって、ヤマなしオチなし意味な
しで良いんでしょ?」
「その筈やけどねぇ。言葉一つとっても面白いもんや。解説がこんな
に色々微妙に変わるしな」
「UFOみたいやんね」
「それはやおい違いでしょうが!」
どっと払い。
*2003.4.9追記
ショタコンの項目追記でも書いたのだが、2003年版に
於いて『やおい』の項目は痕跡も残さずバッサリ切り
落とされている。ここまで触れていないと言うのもお
見事である。最早事典にすら載せる価値の無い言葉と
言う編集方針になったんでしょうか(苦笑)
さて、ここでも『平成新語×流行語小辞典』(稲垣吉
彦著/講談社現代新書/1999.4.20初版)で検索させて
戴きましょう。平成6年に出てくる言葉に分類されて
ますね。「やおいカルチャー」ですか…。
過激な描写を売りにしたやまないおちなしいみなしの
パロディーやアングラカルチャー……えーと、両性・
サル・人肉美食SF……。
……思考回路放棄して宜しいでしょうか(汗)
*2003.4.26追記
WEB上で時折見かける手塚治虫「やおい」発言説の
確認作業の進行状況を今日から追記する。
「マンガの心」(光文社/94.6.30)
《「マンガの描き方」カッパ・ホームス/77年発行を改題》
「ぼくはマンガ家 手塚治虫自伝・1」
(大和書房/79.3.31初版;88.5.5改版)
以上二点確認の上、該当無し。