本屋でOh My God! 小噺その弐
(2003.4.5)

 「今日和ぁ」
 「…今日はえらい客が続く日ィやなぁ……珍しや、お嬢かいな。ささ、
上んなはれ」
 「お邪魔しまぁす。相変わらず本一杯あんねんなぁ」
 「財産はないけど胃散はある。胃散の繋がりで小銭も入るしな。で、
どないしやはった」
 「何やのんな(笑)まずはこれ。お父ちゃんからのお遣い物の塩タン」
 「おやおや、瓢箪から駒がでたわ。後で有り難く戴くとするかいね」
 「で、これはうちからお爺ちゃんに」
 「えらいええ酒持ってきてくれて。どう言う風が吹いたんやろか」
 「お父ちゃん締め上げてショタコンの話洗いざらい訊いたんよ」
 「コレコレ、女の子やねんから物騒な物言いは止めなはれ」
 「でな、お礼ついでにお願い事したらあかん?」
 「お願い事、当ててみよか」
 「うん、当ててみて」
 「やおい調べの事を訊きたいんと違うか?」
 「凄い!ぴったり当ったァ!」
 「ほんとは私の方があんたらに教えて貰う立場やねんけどな」
 「でも、うちらの間でも何やごちゃごちゃしてて判らへんねんもん」
 「ほうかいな。まあ、私が今教えてあげられるんは現代用語の基礎知
識に書いてあった事の纏め程度やけど、それでええかいな」
 「うん、ええよ」
 「まずな、やおいと言う言葉がこの本に出てくるんが1988年やから…
15年前かいな」
 「割に古いんやねぇ」
 「あんたらにしたら古いやろなぁ。で、その時はな、見出しでもなん
でも無いねん。同人誌の説明の一部」
 「そんなもんなん?」
 「大人の造ってる事典やからなぁ。其れがちょこっと詳しくなるんが
1990年。註釈が語源+簡単な説明になっとる。あらま」
 「どないしたん?」
 「おもろい言葉が載ってるわ。やおい族、やて」
 「えー?何よそれぇ」
 「おたく族の中の一部の少女アニメファンの事を指してこう言う、
って…ケッタイな説明やなぁ」
 「おたくって一族やったっけ?」
 「サークルやと私は思うとったけどな」
 「独立項目にはいつなるんやろか」
 「次の年にはなっとるがな」
 「次って91年?言葉登場から4年目で項目になったんかぁ」
 「そこから一寸奥歯に物が挟まるねん」
 「何で?」
 「よう読んでみ?ショタコンと少年愛が合わさってやおいになった
って書いてあるやろ?」
 「ホンマや。少年愛の事を耽美と、耽美の事をJUNEと言ったってなっ
てる。24年組って何なん?」
 「少女マンガの一時代築いた人等の事やったかな。お嬢は風と木の詩
とかは読んだ事あるか?」
 「ああ、あの先生そうなんや」
 「確かトーマの心臓の先生もそうやねぇ」
 「で、内容はホモアニパロって…一寸何とも言えんな」
 「なんやえげつな…。あ、92年何かおもろい」
 「ほう、何ありました?」
 「やおいを不条理ナンセンスマンガと勘違いしたりしたんやって…
これって、伝染るんですのあの先生とか?」
 「そうやろなぁ。そら解釈としては確かにやおいか知らんけど、流れ
から考えたら意味がおかしいなぁ」
 「なあお爺ちゃん。93年からえらい現実に歩み寄ってない?」
 「おこげブームに影響与えたり研究対象にか…なんか権威付けの匂い
するんは私の気の所為かいな」
 「で97年の説明はショタコン+美少年だけになってる。なぁ、美少年
って耽美なん?」
 「一寸難しいなぁ。私はそれは少女マンガに描かれる美少年やと思う
事にしてる。生身の美少年が耽美になろうと思ったら写真かビデオの中
でしかなれんからね。素で耽美になろうと思ったら余程自分に自信あっ
て、周囲も認めてないと勤まらんと思う」
 「フーン、そんなもんなん?」
 「そうなん違うかなぁ」
 「後はずっと変わってないねんね?」
 「2001年版でカップリングやスラッシュが出てくるなぁ」
 「何や判った様な判らん様な…やおいって、ヤマなしオチなし意味な
しで良いんでしょ?」
 「その筈やけどねぇ。言葉一つとっても面白いもんや。解説がこんな
に色々微妙に変わるしな」
 「UFOみたいやんね」
 「それはやおい違いでしょうが!」
 どっと払い。

  *2003.4.9追記
   ショタコンの項目追記でも書いたのだが、2003年版に
   於いて『やおい』の項目は痕跡も残さずバッサリ切り
   落とされている。ここまで触れていないと言うのもお
   見事である。最早事典にすら載せる価値の無い言葉と
   言う編集方針になったんでしょうか(苦笑)
   
   さて、ここでも『平成新語×流行語小辞典』(稲垣吉
   彦著/講談社現代新書/1999.4.20初版)で検索させて
   戴きましょう。平成6年に出てくる言葉に分類されて
   ますね。「やおいカルチャー」ですか…。
   過激な描写を売りにしたやまないおちなしいみなしの
   パロディーやアングラカルチャー……えーと、両性・
   サル・人肉美食SF……。
   ……思考回路放棄して宜しいでしょうか(汗)

  *2003.4.26追記
   WEB上で時折見かける手塚治虫「やおい」発言説の
   確認作業の進行状況を今日から追記する。
   「マンガの心」(光文社/94.6.30)
   《「マンガの描き方」カッパ・ホームス/77年発行を改題》
   「ぼくはマンガ家 手塚治虫自伝・1」
   (大和書房/79.3.31初版;88.5.5改版)
   以上二点確認の上、該当無し。